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2020.10.26特別条項発動について
Q:「特別条項」の発動の手続きを見直すことにしましたが、1カ月の時間外の限度である月45時間のほかに、5割増の割増賃金が必要となる月60時間のタイミングで何らかの注意を促す必要があるのでしょうか。
A:「5割増」の対応なら不要です
大企業は平成31年4月1日以降、中小企業は令和2年4月1日以降、順次、改正法の時間外労働の上限規制が適用になります。
法改正前
⇒時間外・休日労働について、従来の限度基準告示は、労使当事者間で定める手続きを経ることによって、月45時間などの限度時間を超える一定の時間まで労働時間を延長できるとしています(3条)。
その手続きは、特別な事情が生じたときに必ず行わなければならず、手続きを採ることなく時間を延長した場合は、労基法32条などに違反します。
手続は、「労使当事者が合意した協議、通告、その他の手続き」が示されています。
いずれの方法を採るにしても、手続きの時期、内容、相手方等を書面等で明らかにしておく必要があります。法改正後
⇒36協定(特別条項)に限度時間を超える場合の手続きを定めることが明文化されました。
手続きの時期、内容、相手方等を書面等で明らかにしておく必要があるのは改正前と同じです。法改正の前後を通じて、特別条項発動のタイミングで、通告等が必要です。
次に、月60時間超です。
法37条では、時間外労働が月60時間を超えた場合に、通常の労働時間の賃金の計算額の5割以上の割増賃金を支払わなければならない、としています。
法定休日労働は、60時間に含みません。5割増は、中小企業の適用が猶予されていましたが、2023年4月1日からは適用されます(働き方改革関連法附則1条3号)。
労基法上は、60時間超のタイミングで、労働者等への通知が求められているわけではありません。
なお、5割増ですが、金銭補償に代えて、労使協定により一部を休暇とすることも可能です(中小の適用猶予期間中は、代替休暇も適用除外)。
金銭か休暇の選択は、労働者の意思によります。
厚労省「代替休暇に関する労使協定例」では、会社は「代替休暇取得可能者に対して、当該月の末日の翌日から5日以内に、代替休暇取得の意向を確認する」と規定しています。判例:労働実務事例研究(2020年版)
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2020.10.23時間外80時間は毎月確認が必要か?
Q:時間外上限規制に関しては、月100時間未満のほか2~6カ月平均で80時間以内に収める義務もあるといいます。
当社では、特別条項の発動対象者は少数派です。
違反が生じているか確認する作業は簡単ではありませんが、毎月すべての従業員に対して、2~6カ月平均の数字をチェックする必要があるのでしょうか?A:発生後6カ月間の管理も必要になります
改正労基法により、時間外・休日労働(36)協定を結ぶ際の上限(通常と特別条項発動時)が明記されました。適正な36協定を結んだうえで、さらに次の3種類の上限も順守しなければなりません(労基法36条6項)。
①坑内労働その他有害業務…1日2時間以内
②1カ月の時間外・休日労働…100時間未満
③2~6カ月の時間外・休日労働平均…80時間以内従来の特別条項でも、既に何回発動したか、1年の上限に達するまで残り何時間あるか等については、適宜のチェックが求められました。
そうでないと、後から計算して「既にオーバーしていた」といった事態が生じかねないからです、新しいルールでも、事後ではなく事前の確認が欠かせません。
2カ月から6カ月以内の制限に関し、厚労省パンフでは、「時間外と休日労働を合計して80時間を超える月がないような事業場」では、チェック不要としています。しかし、80時間を超えそうな月が発生すれば、その時点で過去5カ月をさかのぼり、いずれの2~6カ月の平均をとっても、80時間を超えない上限等を確認する必要があります(改正法の施行前の部分は遡及不要)。
さらに、その月から起算して6カ月間、「今月は何時間まで残業可能か」を算定する作業を行います。
パンフでは、次のような方法を示しました。第1に、従来と同様に特別条項による制限を確認します(発動回数1年上限との差し引き数字等)。
第2に、たとえば6月に85時間の時間外・休日労働があれば、7月の上限は75時間になります。以下同様に各月ごとの計算を行い、11月には、6月から10月の合計数字を基にその月の上限数を弾き出します。
第1の方法による上限と、第2の方法による上限を比較し、小さい方が順守すべき上限となります。
参考:労働実務事例研究(2020年版)
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2020.10.22「月平均80時間」の適用の遡及性について
Q:当社では36協定を4月から1年間協定しています。
時間外の上限規制のうち、2から6カ月の平均80時間は、平成31年4月(中小企業は令和2年4月)の時点で3月、2月、とさかのぼって判断するのでしょうか。
それとも、36協定ごとにリセットされるのでしょうか?A:労基法36条6項では、36協定で定める延長期間について、1カ月100時間未満であること、直前の2カ月から6カ月を平均して1カ月当たり80時間を超えないこと(いずれも休日労働を含む)という要件を満たさなければならないとしています。
その他、月45時間や年360時間、特別条項の年720時間などの要件がありますが、上限規制の施行に当たっては、経過措置が設けられています。大企業は、平成31年4月1日以後の期間のみを定めた36協定に対して上限規制が適用されますが、中小企業は令和2年4月1日以後の期間ということになります(働き方改革関連法附則2条)。
平成31年(中小企業は令和2年)3月31日を含む期間について定めた36協定については、その協定の初日から1年間は引き続き有効となり、上限規制は適用されません。
上限規制が適用される前の36協定の対象期間において、経過措置の期間に上限規制は適用されないため、2~6カ月平均の算定に含める必要もありません。行政解釈では、上記の期間に加えて、「法139条から法142条までの規定により、法36条6項の規定が適用されない期間」の労働時間は算定対象とならないとしています。
こちらは、時間外規制の適用が5年間猶予されている事業・業務を指します。次に、上限規制の適用後、年や年度をまたぐ期間(前年と今年と複数の36協定が適用される)を対象とする場合、月平均80時間の規制は協定ごとに別々にカウントするのかについて、こちらは、前掲解釈例規では、リセットされずに「複数の時間外・休日労働協定の対象期間をまたぐ場合にも適用される」としています。
参考:労働実務事例研究(2020年版)
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2020.10.20フレックスの時間外上限について
Q:フレックスタイム制の清算期間を最長の3ヶ月単位にした場合、最終月にまとめて時間外が計上される可能性がありますが、1カ月「100時間未満」の規定はどのように適用されますか?
A:週50時間以内を一括清算します
フレックスタイム制は、「清算期間を平均して週40時間以内であれば、1日・1週の法定労働時間を超えて労働させても割増不要」の仕組みといわれています。
しかし、清算期間の上限を1カ月から3カ月に延ばすに際して、割増賃金の計算方法に特例を設けました(労基法32条の3第2項)。
1カ月超3カ月以内のフレックスタイム制の場合、割増の有無は2段階でチェックします。
①第1段階として、1カ月単位では、次の上限枠を超えた部分が割増賃金の対象となります。
上限枠=50時間×1カ月の歴日数÷7日
②第2段階として、清算期間全体の上限枠(法定労働時間枠)は次の通りとなります。
ただし、この上限を超えた部分から「①により既に清算した時間」を除くことができます。
上限枠=40時間×清算期間の歴日数÷7日たとえば、3カ月の清算期間のうち第1カ月目と第2か月目に、週平均の実労働時間が40時間を超えるけれど、50時間以内には収まる状態だったとします。
この場合、①による清算は不要です。しかし、週平均40時間を超えた分はすべて「隠れた借金」となって、②による清算時に顕在化します。
「最終月にまとめて時間外が計上される」とは、このことを指すと思われます。清算期間の最終月に限っては、「単月100時間未満(休日労働含む)」等というルールは前期①の時間と②により計算した時間の合計を対象として適用されます。
ですから、第1・2か月目に40時間枠を大きく超えているような場合、最終月の残業管理は慎重に行う必要があります。
この問題は、1年単位の変形労働時間制にも共通するものです。参考:労働実務事例研究(2020年版)
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2020.10.19改正後のフレックスタイムについて
Q:当社ではフレックスタイム制を採用しているのですが、改正法では、「祝日が少ない月(6月等)」に関する取扱いも変わったようですので、従来の仕組みは利用していませんでしたが、改正後の規定が使いやすいようなら前向きに検討したいと考えております。
どのような点が変更されたのでしょうか?A:「完全週休2日」が対象です
「祝日が少ない月」の問題を、先に整理しましょう。
フレックスタイム制は、「清算期間を平均して週40時間」を超えない範囲で労働させることができる仕組みです(労基法32条の3)。
週(7日)の倍数で清算期間を設定してあれば問題ないのですが、歴月単位だとときに不都合が生じます。6月は、通常、土日が8日、平日が22日です。
30日の法定枠は171.4時間(40時間×30日÷7日)ですが、22日間「普通に働くと」8時間×22日=176時間で、この総枠をオーバーします。従来(改正前)は、解釈例規で特例を設けていました。
その要件は次の通りです。
①清算期間が1カ月
②毎週2日以上休日付与
③(略)
④労働日ごとの労働時間がおおむね一定今回の改正では、法律の本則で、労働時間の限度に関する特例を設けました(追加された労基法32条の3第3項)。
ただし、考え方は同一ではありません。新しい規定では、適用要件が「1週間の所定労働日数が5日の労働者」であることとされています。
①「清算期間1カ月」、②「労働時間がおおむね一定」は削除されました。
一方で、労使協定の締結が必要とされています。具体的には、労使協定で「労働時間の限度を、清算期間における所定労働日数を法定労働時間(8時間)に乗じて得た時間」と定めることができます。
この場合、週平均の労働時間の限度は40時間ではなく、次式で求めた時間数となります。
週当たりの限度=(8時間×清算期間の所定労働日数)÷(清算期間の歴日数÷7日)算定は複雑ですが、要するに「曜日の巡り次第で、1日8時間相当の労働でも時間外が発生」という問題は回避されるということです。
参考:労働実務事例研究(2020年版)
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2020.10.16フレックスの割増計算について
Q:フレックスタイムで清算期間を3カ月に延長することができるといいますが、時間外が生じるパターンとしてどういったケースが想定されますか?
A:残業が生じるパターンは4つあり、月平均で50時間超えに注意する必要があります
フレックスタイム制に関する労基法32条の3は、清算期間を3カ月以内の期間としています。
1カ月でも差し支えなく、また、1カ月半などの清算期間でもよいと考えられます。フレックスタイム制の法定労働時間の総枠となるのは、
1週間の法定労働時間×清算期間の歴日数÷7です。
月31日なら177.1時間、30日なら171.4時間というふうに決まります。
3カ月の歴日数が何日あるか、92日なら525.7時間、91日なら520時間というように決まります。
時間外・休日労働(36)協定に関しては、原則として清算期間を通算して時間外労働をすることができる時間(特別条項を付加する場合を含む)を協定すれば足ります。
ただし、清算期間が3カ月の場合も、36協定は1カ月単位で協定します。清算期間が1カ月を超え3ヶ月以内の場合に時間外労働となるのは、下記の時間です(法32条の3)。
①清算期間を1カ月ごとに区分した各期間(最後の1カ月未満の期間を含む)における実労働時間のうち、各期間を平均し、1週間当たり50時間を超えた時間
⇒週40時間を50時間に置き換えて、各期間の総枠は計算できます。
月31日なら221.4時間、30日なら214.2時間となります。
②清算期間の法定枠を超えた時間(ただし、①の時間外労働時間を除く)上記をまとめると、清算期間が1カ月を超える場合に時間外労働が生じるケースには、次の4パターンが想定されます。
1)総枠のみ超過する場合
2)1カ月など区分期間の枠のみ超過する場合
3)総枠と区分期間の枠の両方で超過するが、区分期間の部分を清算すると総枠を超えない場合
4)総枠と区分期間の枠の両方で超過し、区分期間の部分を清算しても総枠を超える場合
ここでは、③を検討してみます。3カ月の総枠が、520時間(歴日数91日)のとき、例えば結果的にこれを20時間上回ったとしても、1カ月単位でみて週50時間平均の枠を上回る時間が合計20時間以上あれば、総枠の方で時間外は発生しないということになります。
参考:労働実務事例研究(2020年版)
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2020.10.15副業における割増賃金の支払い義務について
Q:雇用する社員に対して副業・兼業の解禁を検討しているのですが、当社の所定労働時間は7時間なので通常は時間外の割増賃金は発生しないものの、当社の勤務終了後に副業先で就業すると、その日の労働時間が8時間を超えた段階で割増賃金が発生すると説明されました。
この場合は、副業先で当該割増を支払うものと理解していますが、仮に1日の労働のうち副業先での就業が先で、その後当社で就業した結果8時間を超えた場合は、当社のほうが時間外の割増賃金を支払うことになるのでしょうか?A:原則は後に契約したほうが割増賃金を払いますが、本業側が義務を負う場合もあります
原則として1人の労働者が1日に8時間を超えて労働した場合、使用者は最低でも通常の労働時間当たりの賃金に25%の割増額を加えた賃金を支払う義務があります(労基法37条)。
これは労働者が労務を提供する事業場ごとではなく、あくまで1日の労働について法定労働時間の8時間を超えた場合に適用されますので、副業や兼業により別の事業場で同じ日に就業した労働時間は、すべて通算されます(同法38条)。本業で所定の7時間就労し、その後副業で3時間就労すると、8時間を超えた2時間分の割増賃金が発生しますが、基本的に当該割増賃金を支払う義務があるのは「後から労働契約を締結した会社」と解されています。
通常は副業を始める際にすでに本業で働いているでしょうから、大方のケースは副業先に支払い義務が生じると考えられます。
副業先の使用者は本業の所定労働時間を知り得る立場にあるので、それを承知で労働契約を締結する以上は割増賃金の支払いも甘受すべきというわけです。そのため、仮に1日のうち副業での就業が先になっても、その後本業で所定労働時間労働した結果8時間を超えたら、依然として副業先に割増賃金の支払い義務が課せられます。
ですが、いかなる場合も本業側の使用者が割増賃金を支払う義務が生じないかというと、そうではありません。仮に本業での所定労働時間が7時間で、副業先がそれを踏まえて1日1時間の軽作業について労働者と労働契約を結んだ場合、本業のほうで残業が発生し8時間労働した日に副業で所定の1時間のみ労働した場合でも、8時間を超える1時間については割増賃金が発生しますが、これについては所定労働時間を超過した結果、法定労働時間を超過する原因を生じさせた本業側の使用者に支払い義務が生じます。
本業と副業の使用者が互いの労働時間を把握した上で管理をしなければいけなくなるため、実務的には副業を労働契約によるものではなく、起業や業務委託の形によるものに限定している企業もあるようです。
現時点で、適用されている割増賃金の支払義務・清算方法等は上記の通りですが、非常に分かりにくく、副業・兼業の促進を阻害するという指摘もあります。
このため、厚生労働省・労働政策審議会労働条件部会では「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方」について検討作業が進められていて、割増賃金支払義務の見直しも課題の一つに挙げられています。参考:労働実務事例研究(2020年版)
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2020.10.14通勤手当の減額について
Q:当社では、時給制のパートが年休を取った際に、平均賃金を支給しています。
前任者からの引継ぎでは、「平均賃金から通勤手当相当を調整・減額して支給する」と教わりました。
しかし、給与明細をみたパートから、「なぜ減額されるのか理解できない」と不満の声が寄せられました。
これは、「パートを対象とする不利益取扱い」等に該当するのでしょうか?A:二重払いを避けるために可能です。
通勤手当は、実際にかかる費用に応じて支給するのが一般的です。
「職務の内容」や「人材活用の仕組み」が異なるから、支給額を減らしても良いという理屈は、成り立ちにくい手当です(勤務地限定や所定労働日数の違い等を理由とする差異はあり得ます)。労基法では、年休取得時の賃金として、3種類を挙げています(39条7項)。
①平均賃金
②通常の賃金
③健保法で定める標準報酬月額の30分の1(労使協定が必要)貴社では、パートを対象として①平均賃金方式を採っておられます。
平均賃金は、支払事由発生日の直前3カ月の賃金総額を歴日数で除して計算するのが原則です(労基法12条1項)。「通勤定期券および昼食料補助等は、労基法11条の賃金であり、『賃金の総額』に含める」と解されています。
つまり、平均賃金として算定された金額の中には、「3カ月分の通勤手当を歴日数で除して得た金額」が含まれています。
一方、通勤手当が月額固定(定期相当)のとき、従業員が年休を取っても手当は減額されません。
結果として、通勤手当分が二重払いされる形となります。
この不合理を解消するため、平均賃金方式を採る場合、「月によって支給される賃金については、1日当たりの額を差し引いて支給すればよい」という考え方が示されています。
「1日当たり賃金の計算方法は労規則19条(割増賃金の基礎単価)によって行う」ルールです。
前任者の方は、この解釈例規に従って引継ぎを行われたはずです。参考:労働実務事例研究(2020年版)
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2020.10.12休日割増について
Q:法定休日の日曜に急な対応で出勤し、そのまま月曜まで作業に時間がかかったのですが、月曜に勤務した分の割増賃金はどうなりますか?
A:該当はしないが、深夜割増には注意が必要です
労基法の考え方では、1回の勤務が午前0時を超えて2暦日にまたがっても、始業時刻が属する日の1日の労働とされます。
午前0時以降についても当該勤務の終業時刻までは前日から連続した勤務であり、当該勤務時間が8時間を超えた段階で、原則2割5分以上の時間外割増の対象となります(労基法37条1項)。法定休日に始業し、日をまたいで翌日の労働日まで勤務した場合であっても、終業までを休日労働とするわけではなく、午前0時以降は3割5分以上の休日割増の対象ではなくなります。
逆に法定休日の前日から始業し、法定休日の午前0時以降まで勤務した場合は、午前0時以降が休日割増の対象になります。
これは、「休日」があくまで午前0時から午後12時までの「暦日」を単位とし、「1日の労働」の考え方と異なるためです。ただし、法定休日に始業時刻・終業時刻のいずれかが属する場合であっても、午後10時から午前5時までの勤務は2割5分以上の深夜割増の対象となることは変わりありませんので、注意が必要となります。
参考:労働実務事例研究(2020年版)
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2020.10.08旅館業の例外規定について
Q:旅館業では「継続27時間以上で休日」とみなす特例があるようですが、この場合、休日労働の対象となる(割増賃金の支払いが必要となる)時間も27時間となるのでしょうか?
A:正午から24時間が対象となります
労基法では、1週1日(または4週4休)の休日付与を義務付けています(労基法35条)。
原則として、午前零時から午後零時までの暦日単位で「労働から離れることが保証されている時間」を確保する必要があります。
単に連続24時間の空き時間があれば足りるという意味ではありません。しかし、①8時間3交代勤務、②旅館・ホテル業、③自動車運転者は例外扱いとされています。
旅館業では、「労働者の勤務が、客の入館時刻(チェック・イン)から退館時刻(チェック・アウト)までの2暦日にまたがって編成されている」という特殊性を考慮して、フロント係、調理係、仲番、客室係を対象とする特例ルールが設けられています。
基本的には、「正午から翌日の正午までの24時間を含む継続30時間(当分の間は27時間)」を確保すれば、休日を与えたとみなされます。
ただし、「年間の法定休日のうち2分の1は暦日で与える」「前月末まで(変更は前日まで)に通知する」「法定休日数を含め60日以上の休日を確保する」よう指導がなされています。その際の割増賃金ですが、「正午から翌日の正午までの継続24時間の休息時間中に労働した部分が3割5分以上の支払を要する休日労働時間となる」とされています。
それ以外の時間帯が時間外に該当すれば、2割5分増しの割増賃金を支払います。なお、勤務割りを定める時点で「27時間」が確保されていなければ、2暦日制の対象にはなりません。この場合、「原則通り、暦日をもって休日を判断」します。
しかし、時間外勤務が「当初、休日と定めた時間帯」に食い込んでも、休日割増等を支払えばそれで足ります。 -
2020.10.06歩合給の割増賃金について
Q:当社のドライバーは、取引先、営業先への卸、配達をしています。
決まったルートが基本で残業時間に応じて割増賃金を支払っています。
一部歩合給を支払っていますが、こちらは、25%のみでよいという認識で間違いないでしょうか?A:「一部分」支払い済みにできますが、出来高といえるかという問題もあります。
割増賃金の基礎となる賃金は、通常の労働時間または通常の労働日の賃金です(労基法37条)。
月によって定められた賃金は、その金額を月における所定労働時間数(月によって異なる場合には、1年間における1カ月平均の所定労働時間数)で除した金額です(労規則19条1号)。
出来高払制その他の請負制によって定められた賃金については、その賃金算定期間において計算された賃金の総額を賃金算定期間における、総労働時間で除した金額(5号)になります。
計算の分母が、月給が所定労働時間であるのに対して、歩合給では実労働時間であるという違いがあります。歩合給の時間当たり単価に時間外労働時間数、休日労働時間数を乗じた金額のそれぞれ125%、135%を支払うべきか、またはそれぞれ25%、35%で差し支えないかという問いに対して、25%、35%で差し支えないとしています。
例えば、10時間(うち2時間残業)働いて1万円の歩合給を得たとします。
10時間働いた労働の成果として1万円が支払われており、125%のうち100%部分はすでに支払い済となっているわけですから残りの25%部分だけを追加支給すればいいということになります。
上記の計算方法に当てはめますと、1時間につき1000円の歩合給を得ているので、割増分は250円になります。
よって、この労働者は1万円の歩合給を得るのに2時間の残業をしていることになりますから、500円を支給すべきことになります。支給している歩合給が、労規則19条の出来高払制その他の請負制によって定められた賃金といえるかどうかは非常に難しい問題です。
走行距離や積卸しなどの回数に応じて支給していた手当につき、一定の業績に連動して計算され支給されていることから、出来高制の賃金と認めた事案(大阪地判H29.9.28)がある一方で、積荷の積卸しの内容は会社の指示で決まるものであるから、労働時間内に提供が求められる労務の内容そのものであるなど、出来高制の賃金に当たらないとした事案(東京地判H29.3.3)があり、地裁ですが、解釈の異なる2つの判例が存在します。
後者では、各手当が固定給であるのか出来高制賃金であるのかはその判別が明確かつ容易にできるものとはいい難い、としています。このように、最終的には管轄労基署などへの確認が必要と思われます。
参考:労働実務事例研究(2020年版)
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2020.10.02平均賃金の算定の仕方について
Q:賃金体系の中に歩合給を組み込む方向で、検討を進めているのですが、年休賃金の計算で「平均賃金」を支払う方法を選択したとします。
1カ月に2日、3日と年休を分割して取得した場合、都度、別々に(複数回)平均賃金を算定するのでしょうか。賃金計算の時点で1回、平均賃金を計算し、すべて同じ単価で支払うということは認められるのでしょうか。A:直近の賃金締切日が基準になります。
現実に「平均賃金による年休賃金支払」というルールを運用している会社では、賃金実務が煩雑になるため、1回の計算で済ませているはずです。
念のために再確認しておきますと、年休の賃金は、次の3種類のなかから会社が事前に選択します(労基法39条7項)。
①平均賃金
②所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金
③健保の標準報酬月額の30分の1(労使協定の締結が必要)
固定給+割増賃金という一般的な賃金形態であれば②が簡便で、実際にも大多数の会社がこの方法を採っています。しかし、歩合給等を含むときは①(あるいは③)も有力です。平均賃金の計算方法は労基法12条によります。
算定すべき事由の発生した日以前3カ月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その総日数で除して算出するのが基本です(同条1項)。年休賃金の場合、「算定すべき事由の発生した日」とは「その年次有給休暇を与えた日である。年次有給休暇が2日以上の期間にわたるときは、その最初の日である」と解されています。
ですから、年休を分割して取ったときは、それぞれの日を基準として「複数回」平均賃金を計算すべきという理屈になります。
一方、平均賃金の算定については、「賃金締切日がある場合は、直前の締切日から起算する」というルールが定められています(労基法12条2項)。つまり、同一の賃金計算期間内に取得された年休に関しては、すべて「直前の締切日」が基準になります。
算定事由発生日が異なっても、計算は1回で済みます。
ただし、年休賃金の計算月を含む3カ月ではなく、前月以前3カ月の賃金を用いる点には注意が必要です。参考:労働実務事例研究(2020年版)
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2020.10.01割増精算時の単価について
Q:変形労働時間制(フレックスタイム制等)の清算期間が長い場合、「最終月にまとめて時間外が計上される」と理解しています。
そこで精算期間の途中(たとえば、3ヶ月フレックス制の2か月目)に昇給があった場合の取り扱いですが、清算期間の初期に残業が集中しているケース等で、最終月に支払う割増賃金はどのように計算すべきでしょうか。A:週50時間超は各期間でみることになります。
1年単位の変形労働時間制にも共通する問題ですが、本欄では3ヶ月単位のフレックス制を例として検討します。
清算期間が1カ月超の場合、1カ月単位では「月平均で週50時間を超えた分」のみを時間外として確定させ、40時間超50時間未満の分は最終月にまとめて清算します(労基法33条1項・2項)。
ですので、最初の2か月に50時間未満の残業が多ければ、最終月の割増賃金が膨れ上がる可能性があります。
3ヶ月単位で制度運用する会社では、年度を4分割する形になります。
「年度」と「第1四半期」の起点(始期)は共通なので、期初に定期昇給すれば、第1四半期を通して割増賃金の算定基礎単価も一定となります。
しかし、通勤手当・家族手当・役職手当等については、清算期間の途中で金額改定するケースもあり得ます。
そうした際の割増賃金の計算方法ですが、厚労省の「改定労基法Q&A」では「割増賃金は、『各賃金締切日における賃金額』を基礎として算定する」という大前提を述べた上で、具体例を説明しています。基本的には、「時間外労働の実際の発生時期」と「昇給時期」の前後関係にかかわらず、清算期間終了時の算定基礎単価を用いて割増賃金を計算します(40時間以上50時間未満の部分)。
しかし、月平均で週50時間を超えた分については「3ヶ月の清算期間の途中であっても、各期間に対応した賃金支払日に」割増賃金を支払います。
2か月目に昇給があったとしても、1カ月目に週平均50時間を超えた分に関しては、「昇給前の賃金額を基礎として割増賃金を計算して差し支えない」とされています。参考:労働実務事例研究(2020年版)
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2020.09.30各月支払う時間外を、3ヶ月後の賃金清算で控除することは可能か?
Q:フレックスタイム制の清算期間が最大3ヶ月に延長されたことを受け、当社でも清算期間の延長を検討しているのですが、時間外割増の計算で確認したいことがあります。
1カ月単位で時間外が50時間を超えた分は、割増を払う必要があると思うのですが、例えば、3ヶ月平均で法定時間の総枠内に収まった場合、既に支払った時間外を後から清算すのでしょうか?A:週50時間超は割増確定となります
今回の改正では、「1カ月を超え3ヶ月以内」のフレックスタイム制に関しては、新しい規制事項を加えています。
①労基署への届出(労基署32条の3第4項)
②協定事項に有効期間を追加(労規則12条の3)
③過重労働防止(労基法32条の3第2項)
④途中採用・退職者の賃金清算(同32条の3の2)今回の件は、②に関するものです。
フレックス制の場合、「所定労働時間は清算期間を単位として定められ、時間外労働の判断も精算期間を単位として」行われます。
ですから、基本的には、3ヶ月の総労働時間が法定の枠内に収まっていれば、1日・1週谷の労働時間に山・谷があっても、時間外は発生しません。しかし、「1カ月を超え3ヶ月以内」のフレックス制の場合、「1カ月ごとに区分した期間ごとに平均して1週50時間を超えない」という制限が付されています。
つまり、1カ月単位で弾力を持たせる幅に上限が設けられているということです。
この上限を超えた場合、1カ月単位で時間外割増の支払が必要になります。ですので、1カ月単位で支払った割増はその時点で「確定」となるため、仮に3ヶ月を均して時間外がゼロだったとしても、既に確定された時間外分を帳消しにすることはできません。
通常の労働時間制で1日8時間を超えれば、その時点で時間外が確定するのと同じイメージです。参考:労働実務事例研究(2020年版)
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2020.09.29転勤した場合、3ヶ月のフレックス制は途中清算されるのか?
Q:当社では、本社と工場、それぞれに研究開発部門があり、フレックスタイム制を導入しています。
現在、改正法に基づき、清算期間を3ヶ月に延長する方向で話を進めています。
フレックスタイム制の労使協定の内容は全社共通ですが、転勤があった場合でも、新設の「途中精算」規定が適用されるのでしょうか。A:事業場間で通算することはできません。
変形労働時間制は、清算期間全体を均して週40時間の枠に収まれば、割増賃金が不要となる仕組みです。
変形期間の途中で入離職した従業員は、勤務時間がたまたま繁忙期と重なった場合、週平均40時間を超えて働く可能性があります。従来は、1年単位の変形労働時間制についてのみ「途中採用・退職者の清算」に関する規定が設けられていました(労基法32条の4の2)。
しかし、改正法によりフレックスタイム制の清算期間が3ヶ月に延びたことから、1カ月を超えたときに限り清算が必要になりました(32条の3の2)。フレックスタイム制の労使協定は、事業場単位で締結します。
清算期間が同一の事業場間の異動であっても労働時間の合算はできず、「それぞれの事業場で労働した期間について清算を行う」必要があるとされています。清算の仕組みは、イメージ的には1年単位の変形労働時間制の場合と同様です。
ただし、3ヶ月単位のフレックスタイム制については、「繁忙月に関する上限」ルールが付加されています。
清算期間全体(3ヶ月)でみれば週40時間の枠内に収まっても、月単位で週50時間を超えれば、その部分に限って都度清算(毎月の清算)が必要とされています(労基法32条の3第2項)。ここで仮に、1カ月目(30日)に220時間、2カ月目(31日)に160時間働き、離脱したとします。
2か月の法定労働時間枠は、
40時間×61日÷7日=348.5時間
です。
実労働時間(2か月計380時間)から法定枠を差し引いた時間は31.5時間です。
ただし、1カ月目に週50時間(月の総枠214.2時間)を超えた5.8時間について既に単月で清算済みなので、追加で割増が必要なのは25.7時間になります。参考:労働実務事例研究(2020年版)
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2020.09.28「給与前払いサービス」は制度上問題ないか?
Q:最近「給与前払いサービス」を導入する企業が増えているそうですが、問題はないのでしょうか。
A:運用の仕方で違法になる可能性もあるので、注意が必要です。
給与前払いサービスとは本来の給料日より前に、すでに労働した分について発生した賃金から算出した一定額を労働者に早期に支払い、残余分を給料日に支払うものが多いようです。
特に貯蓄のするない若い世代にニーズがあり、企業側にも若い人材を確保すべく、積極的に導入を図っているところがあるようです。賃金の支払いは、労基法24条により「全額払い」が原則です。
賃金支払日、すなわち給料日までに労働した分の賃金は原則として全額支払わなければ同条違反となりますが、一部を給料日前に支払い、残りを本来の給料日に支払うのは違反にならないと考えられます。ただし前払いの際、すでに労働した分の賃金額を超えた額を支払うのは給与を担保に金銭を貸す形に近く、同法17条で禁止される「前借金の相殺」に該当する可能性があることには注意が必要です。
前払い分の振出しに、外部の業者が介在するケースも多いようです。
単なる「代行」ではなく、会社が給与の原資を準備しないで一時的でも業者の資産から賃金が支払われていると、やはり同法24条の「直接払い」の原則に違反し得るという点も指摘されています。参考:労働実務事例研究(2020年版)